世界保健機構(World Health Organization: WHO)では、不妊症を「1年以上の不妊期間を持つもの」と定義しています。
その中でも不妊症の原因が男性側にある場合を、男性不妊症と言います。
また、WHOの不妊症原因調査では、男性側のみに原因があるケースが24%、女性側のみ41%、男女両方24%となっており、不妊の約半分は男性にも原因があります。
しかし、少なくとも日本においては、不妊検査・不妊治療というと、女性中心になってしまうのが現状のようです。
それでも、最近は不妊治療専門のクリニックなどでは、比較的早い段階で、精子検査を行うところもあり、一昔前よりはかなり前進したようにも思います。
男性不妊の検査
不妊の原因が男性側にあるかどうかを調べるには、精液検査を行うのが一般的です。
その際、2021年に改定されたWHOによる以下の数値が基準になります。
精液量1.4ml以上
精子濃度1600万/ml以上
運動率42%以上
正常形態率4%以上
男性不妊の原因
男性不妊の原因には、主に以下の3つがあります。
1.造精機能障害: 精子をつくる過程に問題がある。(男性不妊の原因の中で一番多い)
2.精路通過障害: 精子の通り道に問題があって精液中に精子がない
3.性機能障害: 勃起しない、あるいは勃起はするが射精がうまくいかない
この他、加齢による精子の質や量の低下もあります。
男性不妊の病態
男性不妊の病態としては、主に精子の量的問題である「乏精子症」、質的問題である「精子無力症」及び「精子不動症」があります。
乏精子症とは精子の数が少ない状態で、精子がまったくいない場合は「無精子症」と診断されます。
精子無力症とは受精するために前進し、活発に運動する元気な精子が少ない状態で、すべての精子が動いていない場合は、精子不動症ということになります。
乏精子症や精子無力症の1/3以上は、精索静脈瘤が原因だと言われています。
男性不妊に対する漢方的考え
漢方では精子の数や運動率、奇形率などの局所的視点だけではなく、背景に隠れている身体のバランスの乱れを見極めることを大切にします。
根本的な原因を改善することで、量・質ともに上げることが期待できます。
腎虚
漢方的な考えでは、生殖系には、五臓の中でも「腎」が一番深く関わっています。
漢方でいう「腎」とは西洋医学の「腎臓」も含みますが、この他、脳や生殖機能、免疫系、内分泌系などを広く抱合する「生命力」「生殖力」のことです。
この「腎」の働きを支えるのが「腎精」で、「腎精」は両親から受け継いだ「先天の腎」と、食事などから得られる「後天の腎」から成り立っています。
そしてこの「腎精」が不足している状態が「腎虚」です。
腎虚の一番の原因は加齢です。男性の場合、加齢による影響は女性よりはゆるやかであるものの、40歳を超えるあたりから、徐々に腎虚が始まります。
また、最近は若い男性でも、過労やストレス、不規則な生活などにより腎精が消耗され、腎虚の状態になっていることが少なくありません。
なお、「後天の腎」は食事から得られると書きましたが、胃腸の力が落ちていると(=脾虚)、腎精が作られにくくなり、腎虚になることがあります。
気血両虚、瘀血
男性器を栄養するのは「血」です。
従って、血の不足(=血虚)も男性不妊につながります。
また、血液は十分にあっても、隅々まで行き渡らないと(=瘀血)、血の役割を果たすことができません。
一方、気虚(エネルギー不足)タイプは、疲れやすく、やる気が出ないなどの傾向があります。
本人自身のそのような体調は、精子にも影響し、精子も元気不足になってしまいます。
湿熱傷精
お酒やたばこ、甘い物や激辛の食べ物が多いと、体に「湿」(不要な水分)が停滞しがちで、これが長期化すると熱を持ち、湿熱がたまった状態になります。
湿熱は造精機能や勃起機能に悪影響を与えます。
湿熱傷精は不妊の原因としてはあまり多いタイプではありませんが、血糖値や中性脂肪が高い方、健康診断で「メタボ気味」と指摘された方は、注意が必要です。
男性力を高める生薬
女性の場合と比べ、男性不妊の場合、動物系生薬を使うことが多いため、ここでは動物系生薬をいくつか一例としてご紹介します。
牡蠣肉エキス
亜鉛は「セックスミネラル」という別名があるほど、特に男性の生殖器官と深い関わりがあり、精液中には高濃度の亜鉛が含まれることがわかっています。
また、亜鉛が欠乏すると精巣の精細管が萎縮し、精子ができなくなることもわかっています。
牡蠣には、この亜鉛が豊富に含まれています。
また牡蠣には自律神経の調整、ホルモン分泌の促進などの働きがあるタウリンや、精子を増加させるのに必要なアルギニンなどのアミノ酸が豊富に含まれています。
鹿茸
牡鹿の生え始めの幼角を乾燥させた物で、性機能の強化に使われる代表的な生薬です。
参茸補血丸、参馬補腎丸、双料参茸丸、至宝三鞭丸など多くの補腎薬に配合されています。
食用蟻
蟻は自分の体重の400倍もの物を持ち上げるパワーを持っています。
食用蟻にはたんぱく質や亜鉛、マグネシウムなどの微量元素が豊富に含まれ、古くから中国の歴代の皇帝たちが滋養強壮・強精食として食べてきたと言われています。
亀甲・鼈甲
中国では「スッポン(鼈)は千年、亀は万年」と言われ、古代より不老長寿の象徴で、腎精を補う薬として使われてきました。
男性力を高めるための生活養生
精子の状態は、疲労やストレス、食事などの影響を強く受けます。
逆に言えば、これらに注意することで、精子の状態を改善することが期待できます。
睡眠時間を十分に確保し、心身の疲れをためないようにする:心身の疲労が続くと、性生活を持つ余裕もなくなり、性機能の低下やEDにつながります。
食養生を心がける:脂っこい物や刺激物を過度に摂ると精液異常を起こすことがあります。男性力アップに役立つ食べ物は、魚介類、豆類、ゴマ、ニラなど。
お酒とたばこを控える:過度のお酒やたばこは精子の運動率を下げ、奇形率を上げ、性機能障害と関係することがわかっています。
適度な運動:血流の改善や筋力を向上させることで、男性力のアップにつながります。
長風呂やサウナなど高温環境をさけ、下半身を締め付ける衣類を見に付けない:精子は熱に弱く、睾丸の温度が高くなると、精子形成に悪影響があることがわかっています。
適度な性生活:適度な性生活は脳からのホルモン分泌を活発にし、精子の発育を良くします。
定期健診を受ける:高血圧、高血糖、高脂血症などは、男性の性欲や精力に影響を与えることがあります。
つらい体の不調やお悩みは一人で悩まず、まずはお気軽に泰山堂へご相談ください。