耳鳴りは、ご相談の多いお悩みの一つです。
相談に来られるお客様の多くが、検査をしても異常はなく、病院では「年齢(とし)だから仕方がないよ」と言われてしまい、それでも日常生活に支障を感じてご来店されます。
耳鳴りが起こるしくみ
耳は、音を集める外耳、音を伝える中耳、音を感じる内耳より成り立っています。
内耳の中には蝸牛(かぎゅう)という部分があり、その中に有毛細胞という音を感じる細胞があります。
音の空気振動が有毛細胞を揺らし、電気信号に変換して脳に音を伝えます。
有毛細胞は使えば使うほど劣化し、死んでしまった細胞は再生しません。
蝸牛の入口周辺の有毛細胞が一番高い周波数(高音)の分析を担当し、奥に向かうにつれて低い周波数(低音)の分析を担当します。
高音域の音をとらえる有毛細胞は、細かい振動にさらされ続けているため、他の音域の有毛細胞より早く劣化します。ご高齢の方が、高い音から聞こえにくくなっていくのは、そのためです。
徐々に聞こえにくくなるので、それを補おうとして、脳が電気信号に対する感度を上げていきます。
この過剰な反応が、音が鳴っていないにもかかわらず「音が鳴っている」と勘違いしてしまい、耳鳴りを引き起こしていると考えられます。
西洋医学的治療法
薬物療法が中心で、メチコバールなどのビタミンB12製剤、アデボスなどの血流改善などが使われます。
またストレスや緊張を緩和する目的で精神安定剤が出されることもあります。
しかし決定的な治療法は確立されていないのが現状のようです。
耳鳴りと漢方
「腎は耳に開竅(かいきょう)する」と言われるように、漢方では、耳は五臓の中でも「腎」と関係が深いと考えられています。ここでいう「腎」とは成長や老化に関係する根本的なエネルギーを蔵する貯蔵庫。腎臓の働きだけでなく、内分泌系、生殖系、脳の働きなどを含めた幅広い概念を含んでいます。
腎を消耗してしまうと、腎のパワーが不足する「腎虚(じんきょ)」の状態になり、結果、「腎」とつながっている「耳」の働きが低下します。腎虚の原因は主に加齢ですが、最近は「若腎虚」という言葉もあるように、若くても過労やストレス・不摂生により、腎虚を起こしている場合もあります。
腎虚には、「腎」を補うこと(補腎)が必要です。時間がかかることが多いですが、耳鳴りの根本的改善には、この「補腎」が欠かせません。
腎虚には「腎陰虚」と「腎陽虚」があります。
どちらに傾いているかによって、漢方薬も使い分けます。(腎陰虚には六味丸、瀉火補腎丸、亀板製剤など、腎陽虚には八味地黄丸、参茸補血丸など)
また、耳鳴りの原因は腎虚だけでなく、ストレスによる自律神経の乱れや瘀血(血流の悪化)、水滞(水の滞り)などが絡んでいることが多く、これらを改善することで耳鳴りが緩和することもあります。
補腎と合わせて、耳鳴りによく使う漢方薬の一例をご紹介します。
滋腎通耳湯
当帰・地黄・芍薬・川芎により内耳部分の血流を改善し、知母・黄柏・柴胡・黄金が耳の部分の熱(炎症)に対応し、白芷・香附子で気の巡りを改善します。
これにより、血虚(血流量の不足)により耳に熱がこもったために起こる耳鳴りを改善します。
また、気の巡りを改善する柴胡・香附子などの働きにより、ストレス性の耳鳴りにも対応できる処方になっています。
瀉火利湿顆粒・加味逍遙散・逍遙顆粒
自律神経を調整する「肝」の働きが過剰になったために生じている耳鳴りの改善に役立ちます。
若い方のストレスが原因の耳鳴りの改善によく使います。
冠元顆粒
内耳の微小循環を改善することで、蝸牛内の有毛細胞の劣化を防ぎ、耳鳴りを改善します。
頭痛や肩こり、生理痛などを伴う方に効果的です。
苓桂朮甘湯
めまいやむくみなど水滞と呼ばれる体質が耳鳴りに影響していると考えられる場合に使います。
この他、冷えや胃腸の不調などが体質の偏りの根本的な原因になっている場合もあり、それぞれに対応した漢方薬をお選びします。
このように、耳鳴りは「腎虚」をベースとして考えつつも、どのような体質の偏りが耳鳴りの原因になっているかを検討することが大切です。
つらい体の不調やお悩みは一人で悩まず、まずはお気軽に泰山堂へご相談ください。