痔とは、肛門や肛門周辺に起きる病気の総称のことで、日本人の3人に一人が痔になった経験があるとも言われるほどポピュラーな病気ですが、場所が場所だけに、相談や受診にも抵抗があり、自己流で対応している人も多いようです。
命にかかわるような病気ではありませんが、痛みが強くなると日常生活に影響が出たり、傷口から細菌感染を起こして重症化したりする場合もあります。
痔には、主に痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔ろう(あな痔)があります。
痔の種類と特徴
痔の種類についてお話する前に、肛門の構造について簡単に触れておきましょう。
肛門は大腸の末端部分である直接つながっていて、肛門と直腸との境目には、粘膜がギザギザに入り組んだ歯状線と呼ばれる部分があります。
この歯状線の上部(身体の奥側)は直腸粘膜でできていて痛みを感じにくくなっています。
歯状線より下の部分は皮膚でできていて知覚神経が存在するため痛みを感じやすくなっています。
肛門と直腸の周りは、肛門括約筋で囲まれており、肛門括約筋の開閉によって排便をコントロールしています。
肛門括約筋の近くには、毛細血管が集まっているため、長時間座ったままでいるなど、ちょっとしたことで血流が滞り鬱血を起こしやすくなっています。
痔核(いぼ痔)
男女ともにもっとも多いタイプで、肛門の外側にできた痔核を外痔核、内側にできた痔核を内痔核と呼びます。
肛門周辺の血流が滞り、鬱血を起こしていぼ状に膨らんだ状態です。
血流が滞る原因には、長時間座ったままの状態でいたり、排便時に力み過ぎたりすることがありますが、この他にも、下半身の冷えやストレスなども関係している場合もあります。
また女性の場合は、妊娠や出産をきっかけに発症することもあります。
内痔核の場合は、出血のみで痛みを感じることはほとんどありませんが、外痔核の場合は、痛みを伴い、傷が生じるとそこから出血が起こることもあります。
裂肛(切れ痔)
男性よりも女性に多いタイプの痔で、主に便秘などによって、便を無理やり押し出そうとした際に、歯状線より下の皮膚の部分に細く裂けたような傷ができ、排便時に強い痛みを感じます。
症状が酷くなると、排便時だけでなく、常時痛みを感じるようになります。
痛みへの恐怖から排便をがまんしがちになり、便秘を悪化させ、さらに便が硬くなって痔を悪くするという悪循環に陥ってしまう場合もあります。
このように裂肛の主な原因は便秘ですが、下痢が原因となる場合もあります。
下痢が長く続くと肛門上皮に炎症が起こりやすくなります。炎症を起こした部分は傷がつきやすく、切れ痔になってしまいます。
従って、裂肛の場合は、便秘や下痢など便通のトラブルを改善しなければ、症状を繰り返すことになります。
痔ろう(あな痔)
痔ろうは、歯状線の内側の溝に便が残ってしまい、これが細菌感染により化膿し、悪化して皮膚を破って肛門の内側から外側に向かって穴ができてしまうものです。
歯状線の内側の溝に便が残る原因の多くは下痢です。
細菌感染を起こしているので、高熱が出る場合もあります。
ストレスや過労で免疫力が落ちていると細菌感染を起こしやすく、痔ろうの原因となる場合もあります。
また、アルコールや刺激物を取り過ぎると、「湿熱」という炎症を起こしやすい体質に陥りやすく、これも痔ろうの原因になります。
痔に対する漢方的アプローチ
漢方では、痔の症状と原因となる体質によって、漢方薬を検討します。
まず、便秘や下痢がある場合は、これらを改善しなければ、一時的に痔が治っても、再発を繰り返してしまいますので、便秘や下痢を改善する漢方薬が必要になります。
ただし、炎症や出血が酷い場合は、炎症緩和や止血の漢方薬を併用もしくは優先して使います。
また、痔の場合、肛門周辺の血流悪化が原因になっていることが多く、血流の改善が必要になります。肩こりや生理痛、頭痛、あざができやすい、などがあれば、血流が滞りやすい瘀血体質と考え、駆瘀血の漢方薬を用います。
一方、体力がない、疲れやすい、風邪をひきやすい、朝起きるのが辛い・・・など気虚(エネルギー不足)の体質がベースにあると、感染を起こしやすく、痔を悪化させてしまいます。この場合、気を補う(補気)の漢方薬を用います。
痔に使う漢方薬を以下にご紹介しますが、あくまでも一例です。実際に、どの漢方薬が適しているかは、痔の症状やもともとの体質によって異なります。
乙字湯/オツジン
痔のファーストチョイスとも言える漢方薬。いぼ痔、切れ痔、脱肛に用いられます。ただし、便を緩くする黄芩や大黄が入っていますので、下痢タイプの方には向いていません。
浸膏槐角丸
止血作用のある槐角(かいかく)を主薬に6種類の生薬から構成されており、痔による出血を止める働きや、炎症や腫れを取り除く働きがあります。
特に痔出血がある方にお薦めします。
大黄甘草湯・防風通聖散・麻子仁丸
便秘の改善に用いる漢方薬です。
大黄甘草湯と防風通聖散は比較的体力がある方に向いています。
大黄甘草湯はかなり頑固な便秘で、のぼせや吹出物などを伴う場合に。防風通聖散は、直接的に「便秘の薬」というわけではありませんが、暴飲暴食を伴う便秘の場合に、お薦めすることがあります。麻子仁丸は体力のない方やご年配の方、コロコロ便が出る方、他の便秘薬ではお腹が痛くなってしまう方などにお薦めします。
健脾散・人参湯
下痢体質の改善に使います。慢性的な下痢がある場合は健脾散、お腹が冷えやすい人には人参湯がお薦めです。
また、ストレスにより下痢を起こしやすい人は、逍遙顆粒などと併用すると、下痢が改善されることが多いです。
冠元顆粒・血府逐瘀丸・水快宝
瘀血(血流の悪化)体質の改善が必要な場合に候補になります。
普段から頭痛・肩こり・生理痛・目の下のクマなどがある場合は、瘀血(おけつ)体質の可能性があります。
瀉火利湿顆粒・五涼華・銀翹解毒散
アルコールや油っぽい食事が多く、身体に湿熱がたまりやすい方には、瀉火利湿顆粒が候補になります。細菌感染を起こして炎症が発生している場合は、銀翹解毒散や五涼華を検討します。
田七人参・芎帰膠艾湯
痔による出血がある場合に検討します。
麦味参顆粒・補中益気湯
体力がない、疲れやすい、風邪をひきやすい、汗をかきやすい、四肢(腕・脚)が重だるい・・・など気虚の傾向があり、痔の部分に細菌感染を起こしやすい方にお薦めします。体力をつけ免疫力を高めることにより、感染症にかかりにくい身体づくりを助けます。
婦宝当帰膠
出血が長引き、血虚(血の不足)の症状がある場合に候補になります。
紫雲膏
炎症を抑え、皮膚の再生を助ける塗り薬です。
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実際に使う漢方薬は個々に異なりますので、
自己判断せず、ご相談ください。
つらい体の不調やお悩みは一人で悩まず、まずはお気軽に泰山堂へご相談ください。